批評集団「大失敗」

「俺たちあくまでニューウェーブ」な批評集団。https://twitter.com/daisippai19

「大失敗」これまでの歩み、ブログ記事まとめ(2018.9〜2019.1)

 こんにちは、「大失敗」運営の左藤青です。

 繰り返しお伝えしていました通り、ついに『大失敗』本誌の発売が一月二〇日にせまっていますが、ブログ立ち上げ以来(宣伝のために!)書いてきた記事の主要なものをまとめておきます。発売までに各自予習しておくように。

創刊号内容紹介

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 まずは何と言ってもこれ。革命的批評家・絓秀実氏を迎え、第二回すばるクリティークで文壇に認められた(?)男・赤井浩太が運営に参加(創刊号では宮台真司論を掲載)。そのほか、ブレヒト金井美恵子、有頂天(ケラリーノ・サンドロヴィッチ率いるニューウェイヴ・バンド)などについての論考が読める。

 批評対象こそバラバラだが、全員がある一定のテーマに基づき書いているため、全体として統一感のある読み物を作れたと思う。「理論は道具」(byドゥルーズ)であり、使えるものはなんでも使えばいいのだ。

批評宣言

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 左藤青作。二〇一七年に若くして自殺した批評家・マーク・フィッシャーから、再度日本における「批評」を考える。後半には、『大失敗』創刊号の構成メンバー(赤井浩太、小野まき子、左藤青、しげのかいり、ディスコゾンビ#104)の紹介あり。この段階ではまだ「大失敗」が全体的に固まっていなかったこともあり、若干抽象度が高いが、今だにこの問題意識のもとで動いていることは間違いない。

(左藤のツイッター

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知識人論

浅田彰と資本主義

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 しげのかいり作。「衒学」の象徴のように雑に語られることの多い浅田だが、彼が背負っていた政治性=左翼思想史の文脈について明らかにされることは少ない(特定の人々にとっては自明なので)。いったい浅田彰は何をしていたのか? 彼の目指した「革命」とはなんだったのか? また、現代における「批評家」像の根拠としての浅田彰という側面にも触れる。

(しげののツイッター

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資本主義的、革命的(東浩紀外山恒一

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 左藤作。ゼロ年代以降、支配的になった東浩紀の批評だが、それはなぜ支配的だったのか? 若手の批評家たちが明示的にも暗示的にも自明のものとして受け取っている東の思想の出所を探るために、運動家・外山恒一と比較する。一見すると外野から水を浴びせているだけの外山の東批判は、あらゆる思想(政治)を批評に呑み込んでいく東のスタイルの核心を突いているのではないか。批評と思想は同じものなのか? そこに見いだされるのは思想の「棲み分け」であり、知識人の二つの在り方だ。

 前述の浅田論に応答する形で書かれた知識人論。個人的な観測範囲では、この東と外山という取り合わせを間に受けている批評家はほとんどいなかった。ゲンロンがぐだぐだになった今から見ると少し感慨深いものでもある。

(ちなみに外山氏にお会いした際、ご感想をお聞きしたところ、「僕は言及されればなんでも嬉しい」とのことであった)

絓秀実入門

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 しげの作。前述の左藤の記事「資本主義的、革命的」で最後に登場した絓(すが)秀実についての「入門記事」。『革命的な、あまりに革命的な』が増補として文庫化するなど、再度注目されている絓だが、若手の左翼論客が天皇主義・戦後民主主義のベタな肯定に傾いていく中で、もはや「最後の左翼」というポジションである。

 しげのはここで絓による筒井康隆の「断筆」批判を通じて、言葉・表現の「不自由さ」について考える。絓秀実はしげのの最も敬愛する批評家であり、力が入った批評になっている。この文学観は、『大失敗』創刊号にしげのが寄せている文章「金井美恵子論」とも重要な関わりがある。

 繰り返す通り、創刊号では絓氏の論考をいただけることになった(この話がまとまったのは十二月中頃であり、この記事が公開された時点ではそんなことは夢にも思っていなかった)。その助走として、読んでおくべきもの。

 

   

批評

左藤青の音楽批評(平沢進井上陽水) 

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 左藤作。「馬の骨」と呼ばれる一部のオタクにカルト的人気を誇る平沢進について、しかし彼がファンに優しくなる前の、最もトガっていた時期の作品(P-MODEL『Perspective』)を批評。詩の意味性という「遠近法」(「光」)に抵抗し、外部への裂け目を入れようとする「音」について、そしてその後の平沢進の大失敗についての論考。

 井上陽水『氷の世界』論は、しばしば「シラケ世代」と呼ばれる陽水の内向的で非政治的な詩が、つねに巧妙に欲望しつつ逃れつづける「他者」/外部への両義的な関係を整理。後半では竹田青嗣大澤真幸による陽水論を批判。

赤井浩太の小説批評(角田光代

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 赤井浩太作。すばるクリティークで「批評家」に成り上がった男赤井。角田光代論と言いながら、横に秋山駿とアンリ・ルフェーヴルを置き、ある種のディストピアとしての「郊外」を論じている。実は彼は、自身の体験からしても「郊外」にこだわり続ける批評家であり、それは『大失敗』本誌の宮台論でも顔を見せている。

 一方で、注目すべきは文体である。最新の『すばる』二月号に載っている赤井の批評「日本語ラップfeat.平岡正明」では、ラップ調のオラついた文体を披露した赤井だが、ここでは非常に憎たらしい皮肉のこもったイヤミ文体で文章を書いている(ちなみに僕、左藤はこっちのイヤミ文体が非常に好みであり、つい読まされてしまう)。

 赤井の真骨頂はこうした文体のマジックなのである。『すばる』の審査員(大澤、杉田、浜崎、中島)たちは、さすがプロだけあってそこに結構気づいているものの、まだまだ赤井の器用さ・大胆さを知らないといったところだろう。

 ちなみに『大失敗』本誌の宮台論では、この両面が見られるようになっている。

(赤井のツイッター

twitter.com

  

時評・書評

左藤青の時評(『新潮45小川榮太郎、『文學界』落合・古市/『新潮』東浩紀

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 左藤作。初めは色々とアクチュアルなことについて毎月書いてみようと思ったのだが、毎回Twitterで巻き起こる議論がバカバカしすぎて、なかなか書けなかった。

 内容については読んでもらいたい。結局、僕がつねに問題にしているのは「制度」を批判することである。これは柄谷・蓮實・浅田というような(吉本隆明によって「知の三馬鹿」と言われた)批評家たちが常々言っていることだったけれど、僕はそういう意味では非常にベタに「ニューアカ」だし「ポストモダン」な人間なのだろう。

 特に後者(「抽象化の悪と『想像力』のゆくえ」)はけっこう読まれているようだ。やはり、落合・古市は受け入れられないが、かと言ってそれを批判している人たちもおかしい、というようなモヤモヤを抱えている人は一定数いるのであり、そういう層に必要なのは批評的な「想像力」なのだろう。

 あと、なぜか少なからず誤解があったようなのでこの場で言っておくが、僕は落合陽一も古市憲寿も全く評価しておらず、単なる現状肯定を新しいことだと言いふらしているだけの反動主義者だと思っている。ただ、そうしたネオリベ的世界観に対抗できるのは、おそらく素朴な「ヒューマニズム」や「リアリズム」ではない。

赤井浩太の書評(外山恒一全共闘以後』)

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 赤井作。『全共闘以後』が発売されてすぐに書かれたもの。前述の通り赤井は文体の魔術師なのだが、こちらはお得意のラップ文体で書かれている。で、ラップ文体で書かれているわりにかなり手際よく丁寧にまとめてあるギャップが笑えるというのが身内の感想だけれど、ともかく要約として素晴らしいと思う。

 『すばる』の座談会で、文芸批評家の浜崎洋介が「赤井の批評はアジテーション」と評しており(「勢いのある文章で読ませるけど、これはアジテーションではないのかという疑念がどうしても拭えない。僕は、批評とアジテーション、あるいは批評と物語は違うと思っていますが、〔…〕」*1)、もちろん赤井は「アジ」のつもりで文章を書いている。多分「大失敗」の面々は「批評はアジビラ」と考えていて、その場合僕は「ビラ」担当だけど(笑)、赤井は「アジ」担当なのだろう。

 

 さて、これで準備は十分でしょう。一月二〇日(日)、京都に来られる方々は当日、みやこめっせにてお会いできればと思います。当日は僕(左藤)と赤井がいます。他のメンツは未定。

 場所は「こ−38」で、ジャンルは「評論/サブカルチャー」になっています(ちょっと間違えたかもしれない)。在庫が残ったら他のとこにも売りに行くかもしれません。

 よろしくお願いいたします!

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▲「大失敗」の文フリでの情報。

 

(大失敗ツイッター

twitter.com

 

(文責 - 左藤青

 

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*1:「2019 すばるクリティーク賞 選考座談会」、浜崎の発言。『すばる』二〇一九年二月号所収、集英社、二五四頁。