(紹介)『大失敗』創刊号についてのご感想
いつもお世話になっております、「大失敗」左藤青です。一月の京都文フリと五月の東京文フリで無事『大失敗』創刊号を完売することができました。ありがとうございます。
様々な方からメールやTwitterその他様々な場所でご感想をいただいているのですが、その中に、素晴らしい「批評」がございましたので、ご本人の許可を得てご紹介させていただきます。『大失敗』をお持ちの方はぜひ傍に創刊号を置いて、お持ちでない方は『大失敗』創刊号内容紹介をご一読いただいてから、ご覧ください。
※なお、匿名希望とのことでお名前等は伏せさせていただきます。
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レコロ様、ならびに『大失敗』誌同人の皆様
夜分に失礼いたします。連絡が遅くなってしまいましたが、ようやく『大失敗』誌を読むことができましたので、感想を送らせていただきます。
複数の著者によって書かれた複数の文章をおさめた同人誌について、よくまとまった見解のようなものは示すというのはやはり難しいことだと思います。むしろそんな乱暴なことをしてもよいのだろうかとちょっと尻込みしてしまいます。
けれども無茶を承知で言うのであれば、『大失敗』誌におさめられたそれぞれの文章に共通するものは、その雑誌名のキャッチーで「広告的な」響きに反して、思考停止を許してくれるわかりやすさからあくまで距離をとりつづけることであったはずだとわたしは読みました。
しげのさんの文章は作家の「自由」で「純粋」な想像=創造と「不純なもの」を「否認」し自己を構成=「更正」しようとする潔癖症とをパラレルに、レコロさんの文章は極度に主観的なものとしての夢すなわち「当為としての天皇」というバーチャルなヴィジョンを、左藤さんの文章はパンク的な「あらゆる意味のレッテルに対する否定」の「大失敗」を「病だの悲劇だの」として享楽する「「エモい」言葉」あるいは態度を、それぞれ批判しているわけですが、これらはおそらく、わたしたち文学や批評の読者が思考停止の安楽をもとめて手にとってしまいやすいものの羅列であるとも言えるでしょう。
そしてまた、巻頭と巻末の絓氏とディスコゾンビさんの文章がそれぞれ、「国民主権」を謳う市民社会がつねにすでに「トーテミズム」としての天皇制との共犯関係にあることと、60年代に始まっていまにいたる時代の「末代までの恥」を産んだどうしようもなさとを示してしまっているがために、わたしたち読者は、同じく手にとりやすい「平和主義」にも、「若者」の文化に引きこもることも許されてはいません。
そのうえ、小野まき子さんの文章は、「「われわれ」は(それが仮に「ゲロ」だの「クソ」だの「テンノウ」だのといった、即物的(ジャンク)な露悪趣味だったとしても)、センセーショナルな広告的戦略に安易に動員されるべきではないだろう」、つまりこの『大失敗』という冊子に書きこまれたさまざまな言葉のリストにも、簡単に「同化」してはならない、この冊子をさえ「古びた写真のように」、あるいは「植物図鑑のように」読まなければならないと読者に告げてしまっています。
だから『大失敗』誌の(言うまでもなく意図的なものであれ非意図的なものであれ)わたしたち読者に対する呼びかけは、(あなたたち、ではなく)あなたも考えよ、というものであったのではないかとわたしは考えます。しかもそれは、誰かを励まし勇気づけるような、あなたにも考えることはできる、あなた自身の考えを大切にしなさい、というような受け止めやすい自己啓発あるいは啓蒙的なものではまったくなく、容易にいたりうる思考の陥穽への経路を先回りして封鎖し、ほとんど袋小路のような場所にいることをわたしたちに認識させたうえでの(ある意味厳しい)呼びかけであったのでしょう。
ひとまず『大失敗』誌についての感想をここまでまとめたところにいたって、この冊子が受け取り手に(ちょっと信じ難いほどの怒りと叱責をも含む)さまざまな反応を引き起こした理由がわかるような気がします。
単純にそれは、この冊子におさめられた文章のひとつひとつが、わたしたちが(「生きた自由な言葉」の操作によって)手にしたと信じこんでいる結論すなわちあるひとつの「アクチュアル actual = 顕在的なもの」の不自由さあるいは有限性を指摘してみせたからではないでしょうか。ただそれは、ある種古典的なものにさえ見える「批評的知性」が、やはりその当然の(不自由な)帰結としてなさなければならなかったことであるようにも、わたしには思えています。
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本当は個別の文章についてもそれぞれそれなりの長さの感想を書きたかったのですが、それでは今月が終わってもメールを送れないような気がして、乱暴気味ですが短くまとめたものを送ることといたしました。
末筆ながら、レコロさまと、『大失敗』同人の皆様との、ご健勝とご多幸とを心からお祈り申し上げます。
『大失敗』の読者に与える袋小路と思考停止の禁止に至って
2019年5月16日
〇〇〇〇
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(編集 - 左藤青)